はじめに

現在のモノづくりは、高度化し、どんどん難しくなっています。特定の専門家だけでは、開発の方向性を見失い、かなり遠回りしたスクラップ&ビルドを経験してしまうことになります。専門的なジェネラリスト。コンポジット・デザイン事務所が興したJCM日本複合材マーケットだからこそ、工業デザイン的視点で、材料を開発し、プロダクトデザインから、プロセスエンジニアリングを研究しています。CFRPは40年以上前から「新素材」「先端材料」と呼ばれてきましたが、それは今なお材料技術が見直され、設計技術、成形技術が高度に進化しているからにほかなりません。軽量化。特に高強度+軽量化は、人間の社会活動で常に求めてこられました。

軽量構造は何もCFRPを使用しなくても実現できます。それはモノづくりの歴史を見れば、よくわかります。日本の産業は、明治時代に鉄鋼業を中心として発展してきました。工業製品の多くは鉄から始まっていると言っても過言ではないでしょう。戦後自動車産業の発展と共に高強度軽量化が求められるようになり、ハイテン鋼が開発され、さらに磨きをかけたスーパーハイテン鋼など、自動車のホワイトボディを最適に構成するために、いろんな種類の鋼板が開発されてきました。また、アルミニウムに代表される非鉄軽合金が建材をはじめ社会のニーズを高度化してきました。

複合材料もまた、乾漆器や障子やふすま、曲木やプライウッド(成形合板)など、炭素繊維(カーボンファイバー)が発明される前から、洋の東西を問わず、いろんなモノが軽さを重視する製品に使われてきました。その多くのアイテムが「動く」「飛ぶ」「移動させる」という機能が必要なモノでした。
それらは、人間社会が高度化する過程で、航空機はCFRPを主要構造材に採用し、電気自動車を構成する部品を、ポータブル情報家電を軽量化するのに様々な複合材が選ばれてきました。スポーツ用品もまた然りです。
現在、風力発電のブレード生産のために世界中の炭素繊維が一部の地域に集中して消費されています。モノが大きく国家の電源供給というインフラ開発に使われているため、炭素繊維はニーズが生産キャパシティを超え、供給不足に陥っています。直径200m級の風車はCFRPを使わないと製造できないからです。しかし、それは、いつまでも続くわけではありません。いずれそれが、大量のCFRP廃材になることも、普通に想像できますね。作ったものは必ず片付けないとダメだというのが今の世界ルールです。作りっぱなしは許されません。私たちは今、その解決に取り組んでします。

すべての軽量構造モノづくりの先が見えているわけではないので、当サイトでは、その選択肢を増やしたい。多様化した世の中に対して多様なソリューションでJCMはお応えしようと考えています。正解が分かっていない段階で「こっちですよ」とは言えません。ただ、複合材料の専門領域では、「こんな材料もある、こんな新しい成形技術もあります」と、最新のトレンドも含めた、正確な情報をお伝えすることはできます。

その市場の方向性を知る上で重要なのは、信頼できる国際的な情報ネットワークです。日本語で発出されるリリースは、特定の会社の思惑が強く反映され、正確な情報であるとは限りません。日本ブランドの炭素繊維は、世界シェアの70%以上を占めると言われていましたが、中国が巨大な国内需要に対応するため、数年前からCFプラントが林立し、それらの供給が始まったことから日本メーカーは世界シェア50%を切るようです。中国メーカーからデリバリーされれるCFは、航空機グレードにはとどかないものの、汎用用途には十分です。風力発電ブレードの需要以上に供給過多の傾向から、それらのCFは、中国国外へ流通し始めているそうです。
日本のメディアは、日本語のリリースを鵜呑みにしますが、欧米人の評価とは異なる場合があります。そこを見落とすと「ガラパゴス的思考」に陥り、国際スタンダードから外れてしまいます。未来はどの方向へ向かうかは、わかりません。どれが選ばれるかは、世界の各地域の事情とお客さまの決断になります。その決められた方向が見いだせたときには、そちらの方向にすばやく動けるようにしよう、そういう複合材マーケットでありたいといと思っています。弊社は2004年にマジックボックスJPとして独立開業して以来、カーボンコンポジットに軸足を置くデザイン事務所として日本で、東アジアで、世界で人のネットワークを拡大してきました。スポーツモーターサイクル、パソコンなどの情報家電、自動車軽量化、スポーツ健康用品、航空機、リサイクルなど数多くのテーマに係わり、そのたびに新しい友人が増えました。

先端複合材料は、人類がまだ経験したことのない高度なモノづくりを研究開発しながら、カタチにしてきたので、先進的で未来的で夢があります。夢のような製品を生み出し、称賛をされながらも、それを生み出すために採算度外視でやりきったり、できなかったり。夢を追求(事業化)する資金が切れて、部門が閉鎖になる場合や、会社ごとM&Aで財源に余裕がある会社に吸収され、看板が新しくなるとか、新しいプレイヤーがフロンティアを夢見て現れてくるのが日常茶飯事です。経験値が欲しいので、技術者をヘッドハンティングしたり、技術者が自ら動いたり。人の移動もかなりある業界です。そのような業界にあり、また技術・アイデアに対する対価を支払う文化の乏しい日本にあって、デザイン事務所として経営を維持することができたのは、技術革新に対する探究心と、ものの良しあしを見極める目、そして各地で知り合うことができたスペシャリストとの出会いの連鎖だと思います。

2008年にサイトオープンしたJCM日本複合材マーケットは、その十周年を機に2018年に株式会社日本複合材として分社独立させました。サイトオープン当初から、量産コンポジットに関する情報をアップロードし続けました。当時、日本国内では熱可塑性複合材料の成形はほとんど行われておらず、材料もアメリカのBayComp社、フランスのPorcher Industries社のプリプレグを細々と輸入していました。その後、台湾から、韓国から熱可塑材料がリリースされ、日本国内でも各社が参入することとなりました。それら商品を導入するときは、いつも現地に赴き、工場見学をし意見交換を行ってきました。デザイン事務所として、家電メーカー、自動車メーカー、中間材料メーカー各社と開発契約をしていたので、欧米の展示会、アジア圏の展示会にはJECのようなコンポジットに特化したものだけでなく、エンド商品の展示会など数多くのモノを見て、それをレポートしてきました。

コロナ禍のもとで2020年のJEC WORLDがCOVID-19の影響でキャンセルとなり、それ以降、海外に出ることがなかったのですが、その世界的な鎖国の中、JCMはさらに力をつけることとなりました。
長期にわたり契約いただいている中間材料メーカーの韓国でのプロジェクトは、人の往来がなくても、日本でできるトライは日本で行い、韓国で行われる試作は、韓国の信頼のできるエージェントが、お客様と工場をつないで、日本にモノと情報を入れてきました。
2020年11月にCFK-Valleyの呼称で知られるドイツを中心とする国際繊維強化プラスチック業界ギルドのComposites United(CU)から、突如連絡があり、入会を打診されました。書類提出による選考とCU幹部とのWebミーティングにより、正式メンバーとして認証されました。

これまで、台湾、韓国の量産コンポジット製造技術が材料供給、成形品製造の主戦場と考えていましたが、コロナ禍で、海外渡航ができなくなったことで、東アジアとヨーロッパとの距離感が一挙に縮む結果となりました。ヨーロッパ企業にとってJCMは東アジア・コネクションの手掛かりとなりました。

2022年5月開催であったJEC WORLD 2022では、かつて神戸製鋼所内にあった先端複合材料研究所の技術ノウハウを引き継ぐ富士加飾様のファインrCF技術を、前述のCUの仲介で、エアバス社に提案しました。エアバス社はこれまでにもCFRPリサイクルの技術を研究開発されていましたが、私どもが紹介したファインrCFのサンプルを手にして、vCFとの違いが判らない、判断できないという圧倒的な状況からスタートできました。繰り返しになりますが、CFRP/CFRTPは「新素材」と言われます。それは、コロナ下の、地球環境保全の時代にあってもアップデートされています。JCM日本複合材マーケットは、鮮度の高い「新素材」をお届けしています。

令和6年3月4日
株式会社日本複合材
代表取締役 柳原淳一

Composites United Certificated Membership
先端材料技術協会(SAMPE Japan)理事
コンポジット委員会 委員長
日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)正会員
GOOD DESIGN 2010・2023受賞